福井地方裁判所 昭和39年(ワ)55号 判決 1965年9月20日
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及理由
原告は福井地方裁判所昭和三五年(ケ)第五〇号不動産競売事件につき同裁判所の作成した売得金交付明細表を取消し、更に別紙乙号目録記載の通り之を変更する。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めその請求原因として次の通り述べた。
一、福井地方裁判所は、訴外抵当権者早瀬重志の申立により債務者渡勝栄、同渡アサノ所有の別紙目録記載の不動産に対し、同庁昭和三五年(ケ)第五〇号をもつて競売手続を開始し、昭和三八年一二月一二日原告において代金一〇七〇万円をもつて之を競落し、同月一八日競落許可決定を受けた。而して同裁判所は、昭和三九年三月一八日の配当期日に、別紙甲号目録記載の通り売得金交付明細表を作成したが、原告は右配当期日に出頭し、被告に対する右配当金七〇九万七三八四円の全部に付異議を申立たが、被告は之を承諾しなかつたので、同日右異議は未完結に終つた。
二、被告の右配当要求の理由は被告は別表手形一覧表記載の経過を経て、被告振出にかかる為替手形については戻裏書を又訴外渡アサノ、同丸谷辰雄振出の約束手形については各裏書譲渡を受け、現に各手形の所持人で、之が債権担保の為本件不動産に根抵当権を有すと謂うにある。而しながら被告が、所持するに至つた訴外渡勝栄、同渡アサノ、同株式会社福井相互銀行が裏書した右為替手形並に約束手形は、右訴外者等と、被告会社の代表取締役青木茂並に訴外福栄商事株式会社の元専務取締役であつた松岡清等が共謀の上、前記競売売得金を詐取せんと企て、不当な配当を要求する為、昭和三八年一二月一二日競落後、又はその直前、真実に反し、夫々虚偽の記入を為し、同裁判所で不正に之を行使する目的で急造したもので、全く無効の手形である。
三、仍つてかかる虚無の債権に基き作成せられた前記配当表は失当のものであるから之を取消し、更に該配当表を別紙乙号目録記載の通り、変更を求める為本訴に及んだ次第である。
尚別表手形一覧表記載の番号一、二、三、五、六、七の各手形は何れも時効が完成している。
立証(省略)
被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め答弁並主張として次のとおり述べた。
一、第一項は認める。
二、第二項中前段は認める。後段は否認する。
三、第三項は否認する。
被告の主張
一、被告は、現に原告がその請求原因第二項前段中に記載した為替手形並に約束手形(別表手形一覧表記載のもの)の適法な所持人であり、当該手形債権を有するとともに、右別表備考掲記の抵当権者である。
尚原告主張の各手形は何れも渡勝栄、渡アサノが昭和三八年四月三〇日に各裏書をしており手形行為独立の原則から見ても右裏書行為により新たに債権が成立しているものである。従て被告の時効の抗弁は理由がない。
甲号各証の成立は総て之を認めると述べた。
原告は別表記載の各手形は訴外渡勝栄、渡アサノ、被告会社代表者訴外福栄商事株式会社の元専務取締役松岡清等が共謀の上本件競売売得金を詐取する企図の下に昭和三八年一二月一二日競落前後虚偽の記入をした無効のものである旨主張するが原告の全立証によるも之を確保することが出来ない。又時効が完成している旨の主張も原告主張の手形は成立に争の無い甲第五、六、七、九、一〇、一一号証の各一、二の記載によると被告主張のとおり右は何れも渡勝栄、渡アサノが昭和三八年四月三〇日に各裏書により譲渡している事実が認められるので右時効の主張もその理由がない。
以上のとおりで結局原告の主張は之を採用出来ないので棄却すべきものとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
別紙
目録
(一) 福井市佐佳枝下町八九番地ノ七
一、宅地 二六坪一合五勺
(二) 福井市佐佳枝中町一三九番地ノ二
一、宅地 一三坪四三勺
(三) 福井市佐佳枝中町百番地在
家屋番号同町一六四番
一、木造板葺弐階建店舗壱棟
建坪 拾四坪五合
弐階 拾弐坪五合
以上渡アサノ所有
甲号目録
昭和三五年(ケ)第五〇号
売得金交付明細表
一金壱千七拾四万四千参百弐拾参円也
<省略>
乙号目録
売得金交付明細表
一金壱千七拾四万四千参百弐拾参円也
<省略>
別表 手形一覧表
<省略>